防ぐために学生さんにとっては卒業式や入学式、
新社会人にとっては入社式を中止、
延期されるところもありましたが、
そのような中でも、4月ときくと気持ち新たに何かが始まる予感もあります。
このような時だからこそ、誰もが手探りながら
望む、新しい生き方(働き方)を考える良い時期と捉えることが
大切なのではないかと私は感じています。
今後、変化激しい時代を迎えられるみなさまに
ぜひ身につけておきたい視点を得られる本をご紹介します。
この本を推薦する理由
この本の表紙にかかれているフレーズには、
正解をいつも求めてしまう私にとっては、
かなりドキッさせられインパクトがありました。
これからの時代【ニュータイプの時代】には
正解を探すよりも、問題を探すことの方が大切だと言うことです。
私たちの病医院に来て下さる患者さまは経済社会の中で悩みを抱え、
最良の医療サービスを求めて病院へやってきます。
そして、患者さま自身が納得し、静養したり、お薬を飲み、
リハビリをしたりして動いてくださらないと
医療の成果がみられないかも知れません。
つまり、いかにして患者さまの理解と協力を得て
医療サービスを進めるか。
ここに働きかけるためのヒントが本書には詰まっています。
この本の大切なポイントは、
今の世の中は価値観そのものが変わってきていることに
いち早く気付き、
考え方や行動をシフトさせていく勇気を
もつことを勧めているところにあります。
意外に思われるかもしれませんが、
じつは、価値観は時代や社会構造により変化する相対的なもので、
ずっと同じものが通用していくわけではありません。
ただ、共通している傾向はあります。
それは、すぐ手に入るものは価値が低いとされがちで、
希少であればあるほど価値を高く評価しやすいというところです。
目立った不便もない代わりに、
先が読めず常に変化する「不安定」「不確実」「複雑」「曖昧」の
頭文字をとった「VUCA」社会とも呼ばれています。
それ故に組織もひとつの方針を守り続けていては
生き残っていくことができず、
多様に変化する波にあわせたしなやかさが必要だとされています。
右肩上がりの成長が前提で、
問題解決すべきポイントが明確だった時代に貴重とされていた
「役に立つかどうか」や「成果があるかどうか」という評価軸は、
機械化や自動化が進み、解決すべき問題が見えにくい今では、
もう希少価値がなくなっているのです。
では、このような時代、いったい何に価値を置き、
どう動けばよいというのでしょうか。
今注目すべきなのは
「意味があるかどうか」だと、
この本はいいます。
実績や機能を高めた「役に立つ人」ではなく、
ストーリーをもって応援してもらえるような
「意味のある人」を目指そう、と説きます。
そして様々な角度から、
役に立つことを重視する従来の価値観を「オールドタイプ」、
意味をもつことを重視するこれからの価値観を「ニュータイプ」として対比し、
行動のポイントを紐解いていきます。
難しい用語が並びがちな経済本ですが、
事例も多く、要所でポイントが整理されていますし、
格言なども散りばめられていて読みやすくなっています。
さあ新しい時代に向け、
私たちも考え方をアップデートしていきましょう。
本の全体像(概略)
流れを大きく分けると、
「社会的背景」
「ものの見方・思考法」
「行動ガイド」の
3つのポイントがみえてきます。
各項目は「オールドタイプ」「ニュータイプ」の特徴が
比較される形で整理され、
具体的な行動のヒントが描かれています。
第1章 社会的背景の解明
ここでは、これから必要とされる価値観を
生み出した社会的背景を探っていきます。
社会情勢を次のような
6つの大きな時流(メガトレンド)として整理し、解説しています。
[2]問題の希少化と正解のコモディティ化
[3]クソ仕事の蔓延
[4]社会のVUCA化
[5]スケールメリットの消失
[6]寿命の伸長と事業の短命化
この流れからは、これからの価値が、
量産する技術力や問題解決力ではなく、
課題が何かを探しだす力、
個別の関心ごとに応じてきめこまかく
コミュニケーションをとる力、
ライフステージの変化に応じて柔軟に考えや価値を変えていく力に
重点を置く時代であることが見えてきます。
第2章~第4章 ものの見方・思考法の紹介
ここでは、考え方の基本となる視点や思考について、
「価値創造」「競争戦略」「思考法」の3つの軸で、
これまでのタイプから新しいタイプへとシフトするための
ポイントを解説していきます。
各章の項目について、
新旧タイプの対比を一覧表に整理しました。
気になるところから読み進めていただくとよいかと思います。
第5章~第8章 これからの行動ガイド
ここでは、新しい価値観や思考をもって行動するためのヒントを
「ワークスタイル」「キャリア戦略」「学習力」「組織マネジメント」の
4つの軸で解説していきます。
この本全体を通して、
これからの時代に重要なのは、
組織社会の価値基準が常に変わっていくものと心得、
無批判に現状を受け入れることなく、
かといって無意味に反発することもなく、
自分の価値観や軸をもち、自律してふるまうことであり、
そのための努力を惜しまないことだといえるのではないでしょうか。
医療プロフェッショナルとして役立ててもらいたいポイント
少し難しい言葉が並ぶビジネス本という印象も否めない本書ですが、
個人での心構え、チームでの関わり方、患者への接し方など、
さまざまな医療現場へ応用できるヒントも見いだせます。
◆意味付けによって強みを見出し、のばしていく
役に立つかどうかではなく意味をもつかどうか、
の例をみていきましょう。
3章4「意味のパワー」で、
既存の組織へ新たな意味をもたせた例として
ピーチという格安航空会社が挙げられています。
ピーチは、戦争をなくすため、お金をもたない若い人でも
どんどん外国に出て人や文化に触れることができるような
航空会社になるという存在目的を掲げていて、
この軸があるため、コストを下げる、路線を増やすという量的な目標にも
意味をもたせ、会社全体がしらけずに創意工夫し、
実績につなげることができています。
みなさんの医療の現場にも、
院全体として掲げている組織理念がありますよね。
覚えていますか?
医療の発展、患者さまの生き方の向上、
地域社会への貢献など、さまざまな存在目的があるはずです。
業務が忙しいとつい忘れてしまいがちですが、
私たちの行動の目標は、
この理念からぶれずに意味づけをしていく必要があります。
自分や同僚、部下などの行動が目についてしまうとき、
患者さまの行動に困ってしまったとき、
その行動にはどんな意味があったか、
どんな意味をもたせるべきかを掘り下げてみてください。
きっと、今できていることに目が向き、
これからなすべきことを発見できる前向きな気持ちになれるはずです。
◆経験をリセットする勇気が積み重ねの近道
7章21「アンラーン」では、
パターン認識による経験に頼りすぎないようにしようと
呼びかけています。
学習することが悪いと言っているわけではありません。
失敗を繰り返すのはストレスがかかるため、
一度成功すると同じストレスを味わわないよう、
心理に気をつけようというのです。
患者さまは一人ひとりご事情が異なります。
以前とよく似た病状だったので
同じように接したらかえってこじれてしまったという経験を
された方も多いでしょう。
「押してだめなら引いてみる」。
学びには、状況に応じて柔軟に過去の経験を手放し、
新たな経験を取り込んでいく吸収力がポイントになります。
そのためには、8章23「上司と部下」で紹介されているように、
経験の量にこだわらず、
目の前の問題にフラットに関わりあう姿勢も重要になってきます。
◆問いをたてる力を磨こう
柔軟に経験をリセットしていくには、
目の前にある現象に対して
「あるべき姿」を見出し、
解決すべき課題を設定していく力が
必要になります。
このとき重要となるのが、
7章19「リベラルアーツ」で紹介されている
「問いをたてる力」です。
科学的根拠は揺るぎない事実を明らかにし、
与えられた問いを解決するには鋭い武器になりますが、
問いをつくるのは苦手です。
大切なのは科学的だと思いこんでいるものの「常識」を疑うこと。
ただし、やみくもに疑うのではなく、
見送ってよいものと疑うべきものとを見極めるのです。
例えば、患者さまへの働きかけや、
チームでプロジェクトを進めようとしていたとき、
医療行為としては疑う余地がなく八方塞がりになって
しまったりするかもしれません。
思考停止になる前に、私たちの医療が目指す理念に立ち返り、
今の困難がどんな意味をもっているのかを掘り下げてみてください。
患者さまの生活やご家族との関わりを考えたら
治療方法や投薬の内容が変わった、
チームで声をかけあう内容が変わったなど、
できる行動が増えるかもしれません。
成果にこだわらず意味にこだわり、
自分の感じる価値観や直感を信じて、
目の前の現象を多角的に捉え直してみることをおすすめします。
◆人生の豊かさは「逃げる戦略」の中にあり
医療の現場ではとてもたくさんの「痛み」と出会います。
もちろん、痛みはストレスですから、
取り除くためにいろいろな処置を施していきます。
この痛みには、体が感じている危険を知らせて
回避させようとする存在の意味があることは
みなさんご承知ですよね。
一刻も早く解消させるために手を尽くしておられることでしょう。
この痛み、身体的なものとは限りません。
そして、痛みから逃げる必要があるのは、
患者さまだけではなく、医療従事者一人ひとりも同じです。
小さな疑問やストレスを、
「このくらいは続けなくちゃ」
「我慢が足りないといわれそう」と
溜めていると大きな事故につながるかもしれません。
患者さまへの治療も実際に行ってみなければわからないように、
どんな仕事もやってみなければわからないのですから、
やってみて苦しくなるようなところは
すぐに情報を共有して変えていく必要があるでしょう。
このとき重要なのは、逃げ出そうと思い、
意思表示する本人の勇気と、
その意思表示を受けとめる周囲のフラットな心構えです。
人格ではなくなぜ痛みを感じたのか、
その痛みが何を意味するのかを問う。
「我慢が足りないやつだ」と決めつけるのでなく、
一緒に課題を見出し、解決策を考えていく姿勢が重要です。
◆まずできることからやっていこう
新しい価値観を新しく取り入れていこうとするとき、
現状のしくみの中ではなかなかうまくいかず、
膠着してしまうかもしれません。
でも、今のシステムに適応するために苦労することも、
逆にシステムを完全否定して全面的に入れ替えることを画策するのも、
現実的ではありません。
まずはシステムの中である程度動きながら、
私たちが目指す医療の理念にそったシステムの意味を考え、
価値や課題を掘り下げながら、
この本はきっと、
様々な角度からヒントを与えてくれることでしょう。
著者について
山口周(やまぐち・しゅう)
1970年東京都生まれ。独立研究者、著作家、パブリックスピーカー。ライプニッツ代表。
慶應義塾大学文学部哲学科、同大学院文学研究科修了。
電通、ボストン コンサルティング グループ等で戦略策定、文化政策、組織開発などに従事。
『世界のエリートはなぜ「美意識」を鍛えるのか?』(光文社新書)で
ビジネス書大賞2018準大賞、HRアワード2018最優秀賞(書籍部門)を受賞。
その他の著書に、『劣化するオッサン社会の処方箋』
『世界で最もイノベーティブな組織の作り方』
『外資系コンサルの知的生産術』
『グーグルに勝つ広告モデル』(岡本一郎名義)(以上、光文社新書)、
『外資系コンサルのスライド作成術』(東洋経済新報社)、
『知的戦闘力を高める 独学の技法』(ダイヤモンド社)、
『武器になる哲学』(KADOKAWA)など。
神奈川県葉山町に在住。