2020年は変化多い年だと感じている方は
多いのではないでしょうか?
コロナ感染症によってオリンピックが延期され、
そしてアメリカ大統領選挙では
バイデン氏がニューリーダーとなりました。
そのような中でも変わることなく着々と、人のために尽くしてくれていた
存在があったんだ~と嬉しいニュースが目に入りました。
小惑星「リュウグウ」で採取した砂の
カプセルをもって
12月6日に地球に帰還する予定だそうです。
地球上で色々な変化が起こる中、
はやぶさ2は人類のために行うべき仕事を
進めてくれていたんだ~と感慨深く感じました。
心もスッキリ大掃除したい12月だからこそ、
締めにふさわしいと思えるエッセイを今月はお送りします。
この本を推薦する理由
彼女のエッセイというより「語録集」といったほうが
しっくりくる本だと感じました。
手に収まりやすい新書サイズで、
短いものだとほんの4~5行、
長いものでも2ページ足らずの文章が軽やかに並んでいます。
仕事の合間のコーヒーブレイクに、通勤電車のひと区間に、
ぱらぱらと開いたところから目につくものを
拾い読みするだけでも楽しめます。
希林さんが飄々と「あなた、お好きになさい」と
語りかけて肩の力を抜いてくれる気がしてきます。
この本は、出版社(文藝春秋)が樹木希林さん亡きあと、
希林さんの足跡をいろいろな雑誌記事などで調べているうちに
心に迫る言葉がたくさんあることに気き、
本格的に雑誌の専門図書館(大宅壮一文庫)から資料を取り寄せ、
集めはじめたところから生まれたそうです。
生涯にわたる膨大な言葉の中から削りに削って
150本くらいに絞り込んだことで、
希林さんの哲学が立ち上がり、
読む人の心のどこかに刺さる珠玉の言葉が並びました。
こんな話をしていると、
「私の話で救われる人がいるって?
それは依存症というものよ、あなた、自分で考えてよ。(P62)」と
希林さんに笑われてしまいそうです。
20歳の時に役者としての才能を見いだされ、
数々の監督や名のある俳優から絶賛される稀代の名女優になられました。
30歳代のときにテレビドラマ『寺内貫太郎一家』では
沢田研二のポスターの前で「ジュリー...」と呼びかける、
かわいいおばあさん役でブレークし、
カメラフィルムなどのコマーシャルでは、
とぼけた掛け合いでじわじわと笑いを誘ったり。
晩年の映画『あん』や『万引き家族』『日日是好日』などで
魅せた老女の姿も強く印象に残っています。
希林さんは多彩な作品に出演されました。
そのようなチャンスを得られたことを
「自分で一番トクしたなと思うのはね、
言葉で言うと、不器量というか、不細工だったことなんですよ」(P30)と言い、
美人や器量良しばかり集まる芸能界でかえって役が広がった、
不器量の人には皆が関心を寄せないから
自由に判断することが出来たと、
常にポジティブな思考を持っていらっしゃいました。
また、どんな人間にも「なにかその人が生きるだけの道理がある」(P185)と、
自分に重ね役に入っていく方でもありました。
なんでもない日常、どこにでもある普通を大切にし、
執着せず、取り繕わず、ユーモアを忘れない。
その生き方は、破天荒なロックミュージシャンの内田裕也さんと
40年にもわたる別居生活で戦いながらも
夫婦であり続けた関係を「実は救われたのは私のほう」(P86)と
言い切る姿にも表れています。
本の全体像(概略)
人によってもたれる印象は様々に異なるでしょう。
これは希林さんがずっと「自分はなにほどのものでもない」(P38)と、
誰からどう見られるかに囚われることなく、
自由なふるまいを貫かれた証でしょう。
そこには、あらゆる執着を手放そうとする姿勢や、
どんな変化にも力まず前向きに楽しむしなやかさがありました。
希林さんの生き方は、例えば「ものをもたない」「演技をしない」「子を守らない」と
いうふるまいにあらわれています。
執着から解き放たれることで得られる軽やかさには
誰もが憧れるところですが、何にも依存せず生きるのは、
つまりは自分が何者であるかの拠り所をもたないということ。
実はとても難しいものでしょう。
希林さんはとてつもない強さをもっているのに
それをまったく感じさせない、ものすごい女性だったのだと改めて思います。
この本は、樹木希林さんが生前に様々なところで話した言葉がそのままの形で切り取られ、
カテゴリ別に大別され、6章に並べられています。
第1章「生きること」
乳がんが見つかり全身転移した後も淡々と生きた歩みを通じ、
「欲」や「美しさ」「生死」など、生きるということを、
平易な語り口でユーモラスに語ります。
第2章「家族のこと」
夫婦や親子などの関係、家庭のあり方について、
壮絶なはずだったエピソードも流れるように淡々と語られ、
「普通」や「絆」、「認める」といった関わることの言葉が紡ぎ出されていきます。
第3章「病いのこと、カラダのこと」
網膜剥離や乳がん、全身がんといった罹患によって
大きく変わった人生観について、「いい塩梅にがんっていうのがあるから」と
ポジティブな語りで希林さんの言葉が並びます。
第4章「仕事のこと」では、
多彩な役に入る姿勢を通じ、仕事への向き合い方、
自分の価値について語ります。
第5章「女のこと、男のこと」では、
独特の夫婦関係を経た俯瞰の視点で、
女としての魅力、人としての色気について語ります。
最後の第6章「出演作品のこと」では、
希林さんが関わった共演者や監督、ロケに関わった方々のエピソードを通じ、
軽やかに、生きる賛歌を語ります。
樹木希林さんの葬儀のときに娘の也哉子さんがなさった
「喪主理挨拶」が寄せられ、
娘の目からみた希林さんの姿が語られています。
その中で披露された希林さんの言葉
「おごらず、他人(ひと)と比べず、面白がって、平気に生きればいい」が、
人や社会に興味をもって楽しみながらも、
人やものの価値に執着せず、
自由な関係を貫いた生き方が集約されているように感じます。
また、巻末には希林さんの年譜があり、
膨大なドラマや映画が紹介されているのですが、
これでもすべては掲載しきれなかったとか。
作品名を年代順に追いかけていくと、
当時の様子などを思い出したりしてそれだけでも楽しめます。
いくつかの作品はDVDをかりてもう一度観ようかな~と思われるかも知れません。
樹木希林さんの言葉はどれも、難しい用語を使うわけでもなく、
目新しい造語があるわけでもないのですが、
水が乾いた地面にしみこむように心に入り込んできます。
平易な語りで実は深い。
楽しく眺めているうちにいつのまにか希林さんのワールドに巻き込まれ、
いろいろな言葉が胸に迫ってくることでしょう。
医療プロフェッショナルとして役立ててもらいたいポイント
樹木希林さんの言葉から教訓めいたことを導き出したりするなんて、
「あなた、そんな野暮ったいこと、おやめなさい」と
希林さんからお叱りを受けそうですが、
希林さんの言葉に触れて感じたことから、
医療の現場などで思い出したい言葉を少しひろってみました。
◆目の前の仕事と向き合うときに
「"きょうよう"があることに感謝しながら生きています。」(P61)
きょうようの字は、『教養』ではありません。
今日、用があること、神様が与えてくださった
今日の用をひとつずつこなす幸せを説いているのです。
「モノがあるとモノに追いかけられます」(P24)。
人の能力もお金も品物も、持てば持つほど、
持っていることに縛られてしまいます。
自分を高めていこうという気持ちはもちろん大切ですが、
どんな端役でも、誰もやりたがらない仕事でも、
今の用が与えられたことに感謝し、
興味をもって向き合っていく姿勢が大切だということです。
傍からは地味でつまらない人生に見えたとしても、
本人が本当に好きなことができていて
『ああ、幸せだなあ』と思っていれば、
その人生はキラキラ輝いていますよ。」(P23)
◆困難にぶつかったときに
「俯瞰で見ることを覚え、どんな仕事でもこれが出来れば、生き残れる」(P132)
仕事で関わっている人達を、
自分自身も含めて上から見下ろすように俯瞰してみると、
自分がどの立場でどの位置にあり、何をするべきかが見えてきます。
行き詰まったときほど、その場の執着を断ち切って離れてみると、
肩の力がすっと抜けて、見るべきものが表れるということです。
また希林さんは、どんな状況になっても
「おもしろがってみると、そこに幸せが見つけられる」(P66)といいます。
例えば、「『痛い』じゃなくて、『ああ気持ちいい』って言い替えちゃう」(P122)と
ポジティブな言葉に置き換えて、
困難を打ち拓く大きなエネルギーに変えることは、
皆様に試してもらいたいと思いました。
◆家族や仲間と関わるときに
「存在をそのままに、あるがままを認める」(P90)
家庭や仕事で様々な人と関わっていくと、
どうしてもうまくいかないときができます。
そんなとき、自分の価値観や財産以上にしがみついてしまいがちなのが人間関係。
思うように動いてくれないとイライラしてしまいますよね。
相手の価値観に振り回されてしまわないようにするには、
「とにかく自分の頭で考えて、自分で動く」(P66)ことだと希林さんは語ります。
まず自分がイキイキすることで、相手の状態への執着を手放し、
その存在をそのままに認めるのです。
「いろんな修羅場があっても人の責任にしない」(P172)を潔しとすることで、
結果的に周囲も影響されて良い方向に回っていくのではないでしょうか。
◆患者様と関わるときに
「世の中に対してのオカンの顔施ができたなあ」(P175)
布施(ふせ)とは相手が欲しいものを与えることなのですが、
それには物施(ぶつせ)、心施(しんせ)というものがあります。
物質的なものを与える(物施)ではなく、
心くばりや、優しさを与える(心施)の中で、
希林さんは映画宣伝用のスチール写真を撮った時に感じたとか。
それがこの本の表紙の写真なのですが、とても気に入っておられたそうです。
いつも穏やかな笑顔で患者さんに接し、
病で不安に思う患者さんやご家族の気持ちを和らげられるよう、
心施・顔施を意識していただければと願います。
著者について
樹木希林
1943年東京生まれ。
女優活動当時の名義は悠木千帆。後に樹木希林と改名。
文学座附属演劇研究所に入所後、テレビドラマ『七人の孫』で
森繁久彌に才能を見いだされる。
ドラマ『時間ですよ』『寺内貫太郎一家』『ムー』などの演技で話題をさらう。
出演映画はきわめて多数だが、代表作に『半落ち』『東京タワー オカンとボクと、時々、オトン』
『歩いても 歩いても』『悪人』『わが母の記』『あん』『万引き家族』などがある。
61歳で乳がんにかかり、70歳の時に全身がんであることを公表した。
夫はロックミュージシャンの内田裕也、
長女のエッセイストの内田也哉子、娘婿に俳優の本木雅弘がいる。
2018年9月15日に逝去、享年75。
来年度【2021(令和3)年】に向けて
新しき年2021年にも、色々な変化や節目があることでしょう。
皆様のご多幸とご健康を祈りつつ、
ともに素晴らしい時代を過ごしていけることに感謝いたします。
20.12.01(火)村田 小百合 カテゴリ:スタッフブログ